プロフィールコラム【中編】「勝たなきゃ」の外側で、迷っていた私

※書き始めたら長くなってしまったので、今回は「中編」ということにさせてください。笑

初めてスポンサー解除を告げられたのは、
プロ転向5年目のシーズン半ば、6月の都内で行われていた国際大会の期間中でした。

試合に敗退した直後、直接話がありました。

その時の私は、
明らかに無理をしていました。
膝には水が溜まり、腫れ上がり、
灼熱のハードコートに膝をついても、
熱さを感じないほど感覚が鈍くなっていました。

それでも、
「出られるなら出る」
それが当たり前だと思っていました。

話を聞いた瞬間、
頭に浮かんだ言葉は
「やっぱり来た」
でした。

その大会が終わったら手術をする、
そんな話を事前にしていたこともあり、
初めての長期離脱がどういう意味を持つのか、
どこかで予想はしていたのだと思います。

それでも、
悔しさとやるせなさ、
そして将来への不安が一気に押し寄せました。


実は、その少し前まで、
結果だけを見れば順風満帆な時期でした。

ITFの国際大会でシングルスタイトルを獲得し、
全日本選手権では単複ともに2年連続でベスト4。

数字だけを並べれば、
「順調」と言われても不思議ではなかったと思います。

でも、その結果が出ていたからこそ、
私は無意識のうちに、
「この流れを止めてはいけない」
「ここで立ち止まったら、すべてを失う」
そんな焦りを抱えていました。

結果が、
自信になる一方で、
「失うことへの恐怖」にもなっていた。

だからこそ、
膝が限界を迎えていても、
休むという選択肢を選べなかったのだと思います。


当時の私にとって、
「休む」という選択肢は、ほとんど存在していませんでした。

試合ができない。
結果を出せない。
それはそのまま、
「選手としての価値がない」
という判断に直結していました。

日本のテニス界の空気も、
その考えを強めていたと思います。

今、勝っているか。
数字が残っているか。
それが、選手の価値を決めるすべてのように感じていました。

プロアスリートとしての価値が、
結果だけで決まるものではない。
今ならそう言えます。

でも当時の私は、
そのことを誰からも教わらず、
自分でも理解できていませんでした。

正直に言えば、
怪我によって強制的に休養に入ることができたのは、
結果的には良かったと思っています。

あの頃の私は、
数字や結果でしか自分を認めることができず、
周りと比較し、
テニスを楽しむ感覚すら失っていました。

「自分だからできること」が何なのか、
まったく分からなくなっていたのです。


それでも私は、
無理をしてコートに立ち続けました。

パフォーマンスが50%も出ていないことは、
自分が一番わかっていました。

それでも、
「ラッキーなドローで、初戦だけでも突破できれば」
そんな目先の小さな数字に、
必死にすがっていました。

今振り返ると、
視野は極端に狭くなり、
苦しくなる選択肢しか選べなくなっていたと思います。


スポンサーを失ったあと、
経済的に大きく何かが変わったわけではありませんでした。

幸いにも、
その状況でもサポートを続けてくださる企業が見つかり、
生活が一気に立ち行かなくなることはありませんでした。

でも、
「この支援をどう使うのか」
という問いは、これまで以上に重くなりました。

私は、環境を変える選択をしました。

海外のコーチに帯同をお願いし、
積極的に海外遠征を重ね、
サポートしてもらっている費用を
より多くの経験に変えていこうと決めました。

結果のためだけではなく、
選手としての引き出しを増やすために。


それでも、
「自分はもう終わりかもしれない」
そう思った瞬間は、確かにありました。

結果を出している自分にしか価値がないと、
心の底から思っていたからです。

そんな中で、
人生で初めて、
ラケットを置いた時間を過ごしました。

テニスをしていない世界。
テニスをしていない自分。

驚くほど新鮮で、
「今のうちに、こういう自分も楽しんでみよう」
そう思える瞬間も、少しずつ増えていきました。

それでも、
罪悪感が消えることはありませんでした。


それまでの私にとって、
「プロとして正しい姿」は明確でした。

どんなプライベートも惜しまず、
常に「勝つため」に行動する人。
自分に嘘をついてでも、
感情を押し殺してでも、
結果のためにすべてを差し出せる人。

でも、
どんなに努力をしても、
結果に必ずつながるとは限らない。

誠実に向き合っているつもりでも、
自分のWANTを押し殺し、
自分らしさを出せない日々は、
心だけでなく、確実に身体にも影響を及ぼす。

そのことを、
私はこの時、初めて理解しました。

価値観は壊れた。
でも、まだ新しい答えは見つかっていない。

「勝たなきゃ」の外側で、
私は確かに、迷っていました。

後編へ続く…

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